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共育(きょういく)


学生の頃、家庭教師のアルバイトをしていた。

小学校5年生の彼の名は「スリアン」。

インドネシア人の父と日本人の母の間に生まれたハーフで、訳あって生まれ育ったインドネシアから母の故郷にきたばかりだった。

当然日本語は母に教えてもらった片言しか話せず、学校の友達にも馴染めずにいた。


家でもとても暗い表情をしていて、身を寄せている叔父や叔父の家族ともほとんど口をきかないらしい。

叔父も彼の母もそんな彼を見てとても心配になったそうだ。


そんな時白羽の矢が立ったのが、彼の従兄弟の家庭教師をしていた兄の妹であるわたしだった。


ちょうどわたしもバイトを探していたところだったし、小学生ならという軽い気持ちで引き受けた。


最初に会った日はなかなか心を開いてくれない彼に驚いたけど、そんなことはお構いなしに楽しい話し、面白い話しばかりで彼を笑わせることだけに集中した。

日本語がメインで後は勉強も教える筈だったけど、勉強は国語以外は驚くほど優秀で、わたしが教えることなんてほとんどないくらいだった。

3回目くらいからようやく会ってすぐに笑顔になってくれるようになり、それからは学校であった出来事やインドネシアでの話し、大好きな食べ物や今ハマっているテレビの話しなど、とにかくたくさん話してくれるようになった。

気付けば3ヵ月も経った頃には日本語はほとんどパーフェクトになり、漢字も同学年の子以上に書けるようになっていた。

その間わたしがしたことといったら、毎回面白い話しをして一緒にゲラゲラ笑っているだけ。

漢字も算数も、わたしが見ているだけで彼が独りで黙々と勉強していた。


彼との楽しい時間はあっという間に過ぎて、スリアンがすっかり明るく元気な少年に変わった頃、わたしが実家に帰ることになり別れの日がやってきた。


「先生じゃなきゃ嫌だ」と大粒の涙を流しながら言う彼。

「先生にもやらなくちゃいけないことがあるのよ」となだめる彼の母。

「本当にごめんね。でもずっと忘れないからね。」涙をこらえてバイクのヘルメットで顔を隠すわたし。


バイトに行った夜雪が降り始め、バイクで帰るわたしを心配して寒いのに外まで見送ってくれたよね。

冷え切ったエンジンがなかなかかからず、早く家に入りなさいって言ってもエンジンがかかるまで傍にいてくれたよね。

わたしは、小学校5年生の少年がこんなに頼もしく思えるなんて知らなかった。


勉強を教えるってことは、勉強したい気持ちを育てるってことだって教えてくれたよね。


スリアン、今どこにいるかわからないけど、本当にありがとう。


今、わたしの息子が当時のスリアンの年齢に近付いているよ。

スリアンのように、優しくて頼もしい男の子になれるかな…。


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コメント

[C41] 「強育」のところもあった。

私は大学時代、塾の講師と家庭教師をしていました(他のバイトもしていたけれど。全部で20種類くらいのバイトを経験させてもらいました)。

家庭教師は2箇所でした。その一つが小学校3年生の男の子で、シングルマザーとしてお母さんはお子さんを育てておられました。

お母さんはある宗教の熱心な信者で、その宗教が作っている私立の中学校にどうしても自分の息子を入学させたいと考えておられました。でも、その男の子はそんなつもりはまるでなし。進路を選ぶ余地がないほど成績が悪く、勉強が大嫌いで、問題を1問解く度に、ゲームしていい?と私に聞いてきます。

じゃあ、私もゲームするから、私が「WIN」(マリオのゲームだったかなあ)になるまで問題を解いていてね、と提案したら、うんと言ってくれたので、私はわざと(いえ、もともとゲームが苦手)私のゲーム時間を延ばしたり縮めたりして男の子の様子を伺っていました。

そんな関係性がようやく築けてきたころ、お母さんからお怒りをいただきました。勉強しない子供を強いて学習させるのが家庭教師の役目だろう、と。

私は、**君はまだまだ集中力がついていないので、少しずつ机に向える時間を長くしていくことから始めないと、どんな家庭教師が来ても勉強しようとしませんよ、とお答えしました。でも結局、クビになりました。新しい家庭教師を紹介しましたが、その方も直ぐにやめさせられたようです。


私は共育を目指していたけれど、お母さんは強育を希望されていたので、お母さんとは関係性を築けないまま終わってしまいました。あの男の子は、今どうしているかな?と今でも気がかりです。
  • 2011-07-04 07:27
  • とよこ
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Author:takekos1
はじめまして、takekos1(タケコ)です。
四年前までフリーランス・インテリアコーディネーターとして仕事をし、小学校3年生の男の子の母親で、育児&家事に追われる普通の42歳の主婦でした。
突然のALS発病で大好きだった仕事を失くしたけど、どんな時でも笑顔だけは忘れず残された日々を楽しみながら生きていたら、突然進行が止まりました。
そして、今新たな幸せな人生を歩み始めています。
難病だって身体が動かなくなったって、生きていればきっと幸せは見つけられるって信じてます。
病気についての詳しいことは、下記のブログで書いています。
http://plaza.rakuten.co.jp/takekos1/

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